chilican's diary

読んだ本や聞いた音楽の話をします。

Joshua Redman / Compass

Joshua Redman / Compass (Nonesuch, 2009)

ジョシュア・レッドマンの新譜は日本盤を買いました。
日本盤にはボーナストラックが2曲(うち1曲はノンサッチのサイトダウンロード販売もされている)入っているのだけれど、それを目当てに2か月も遅い日本盤を待っていたわけではなくて、ただ単に発売直後に買わなかっただけである。

でもなんでかな、と振り返ってみると、ジョン・ハッセルのアルバムを買っていたり、アマゾンでECMのアルバム800〜980円くらいのセールをやっていて、そっちに気持ちと財布が行っていたからであった。

ジョシュア・レッドマンミシェル・ンデゲオチェロのアルバムへの客演でかっこいいなーと思ってから、全部ではないけれどリーダー作も聴いているお気に入りサックス奏者の一人である。
村上春樹(『村上さんに聞いてみよう』所収)や、com-postの面々をはじめとしたジャズ評論家にはおおむね(否定的な意味合いで)「優等生的」とか「器用」とか言われて、技術的には優れているけど、あんまりおもしろくないといわれているのだけど、ジョシュアのするっとした、シルキーでスマートなサウンドがぼくはかなり好きだ。

大体太い、荒々しい音色だけがサックスの持ち味じゃないだろ。

たしかに長尺のソロをとって聴き手を前のめりにする類のサックス奏者ではないとは思うけど(2枚組のライヴ盤Sprit of the Momentは、聴きどころはいくつもあるけれど、全体としてはかなり冗長で、2枚通して聴けるアルバムではない)、グループ全体のサウンドできかせたり、コンセプトを立てて作ったアルバムを作らせると面白い人だ。ソリストとしても、コンパクトに吹けばかなりかっこいいソロを吹く。

そして、今度のアルバムは、前作Back Eastにつづき、ピアノレスで、サックス、ベース、ドラムの編成。前回は曲によりゲストのサックス奏者が加わっていたが、今回はサックスはジョシュア一人で、サックストリオのほか、曲によりツインドラム、ツインベースのカルテットや、クインテットになる。参加ミュージシャンは次の通り。


Joshua Redman (tenor & soprano saxophones)
Larry Grenadier (double-bass)
Reuben Rogers (double-bass)
Brian Blade(drums)
Gregory Hutchinson(drums)

ツインベースは前代未聞ではないけれど、珍しい部類の編成になる。ぼくはベース2本という組み合わせそのものが好きで、オーネット・コールマンFree JazzコルトレーンOle、アンドリュー・ヒルSmoke Stackデイヴ・ホランドとバール・フィリップスや水谷浩章菊地雅晃のデュオなどよく聞いているし、音域が近いバリトンサックスとダブルベース、チューバとダブルベースなんて組み合わせにもよく注目する。
ベース・デュオはさておいて、ベーシスト以外のリーダー作の場合、ベース二本の絡み合いはもちろん聴きどころだけれど、フロント楽器のソロと一方のベースが呼応し、もう片方はパートとしてのベースをやるパターンが多いけれど、ここでのジョシュアは、ソリストであるにもかかわらず、前面に出てくるのではなく、あくまでグループの軸(あるいは触媒)として吹いている場面が多い。こういうタイプの「拡大リズムセクション」を持ったジャズは画期的だとおもう。

ボーナストラックの2曲のうち、"Alef Ituk"はアコースティック・アフロビートな小品で、ボーナストラックではあるけれども、ソロ偏重ではなく、星座のような関係性の音楽だということをよくあらわしている。ベートーヴェンの月光より、これを本編に入れるべきではなかっただろうか。