chilican's diary

読んだ本や聞いた音楽の話をします。

マイナー・レーベル雑感、quartz-head

音楽でも、絵画でも文章でも、ある作品は好きだけど、同じ人の手になる別のものは好きじゃない、というのは、ごく当たり前のことだ。
そのことに気づいてから、気に入らないものはさっと手放すようにした。ときどき、好きな作品を作る人のほかのものも前に買ったよな、気に入らなかったけどもう一回聴いてみようかな。そう思って探したら、手元にない。そういうこともけっこうある。たとえば、チック・コリアエレクトリック・ピアノを弾いてるアルバムは、マイルスバンドとECMの「カモメ」しかない。*1あとは最初のうち度肝を抜かれても、飽きるんだよな。
デトロイトテクノやエレクトロニック・ミュージックに積極的にかかわって、ジャンル融解的に新しいジャズをやっているサックス奏者藤原大輔も、ぼくにとってはわりと、作品によって好き嫌いが別れちゃう一人だ。

デトロイトテクノ、嫌いなんです。
すごいって話を聞いて、野田努の本読んで(『ブラック・マシン・ミュージック』。一つの文化誌としてはとても面白い本です)、音源も聴いてみたさ。ジェフ・ミルズとかUR(Galaxy 2 Galaxy。『A Hi Tech Jazz Compilation』って2枚組)買ってさ。スペーシーでわかりやすいメロディがあって、最初聴きやすいとは思ったんだけど(昔のブログでもしばらく聞いていた時のことを書いてる。最初は半ば伝説的な音源が聞けてうれしかったんだよね)、なんていうのかなあ。密閉された感じでドンドンドンドンキックドラムが鳴り響くのが息苦しくなったんだよね。

で、売っちゃった。思いのほか高値で売れたのですごくよく覚えている。だって中古CDの買い取り価格で2000円超えてたんだから。今アマゾン見たら3000円オーバーだよ。どうしてこうマイナーなジャンルのミュージシャン、あるいはレーベルのオーナーって大企業の商業主義を批判しながら、あっさり入手困難にしたり限定盤出すのかな。そういう飢餓感をあおって売って、在庫を抱えないようにする営業方針は立派に商人の鏡ですよ。あなた方が嫌いなのは大きな組織の官僚的なシステムでしょ?営利追求は大好きなんじゃん。と思うのだが、なぜ「商業主義」なんて言う玉虫色の言葉を使うかなあ。特に電子音楽と前衛音楽と即興音楽の世界がこの傾向が強い。客層も限られてるし、大量生産してたら立ち行かないからみんな好きなら出資してくれよ、といったほうがすんなりいくと思うんですがね。その点、アメリカのArtistshareははっきりと出資というコンセプトを表向きにしていておもしろい。CDを買ったり、ダウンロード購入するのも「投資」なのだ。このあたりの直接的なパトロンとして、消費者、レシピエントとアーティストがあたかもひとつの共同体(全体主義的な統合ではなく)をつくるビジネスのあり方には可能性があるんじゃないかな。でも、Artistshareのは試聴しかしたことないんですけどね。

話がそれた。
藤原大輔のソロ作、JAZZIC ANOMALYはテクノとジャズが一体化したような音楽で、反復とサックスソロの混交が結構興味深くはあったんだけど、前述の密閉感が強くてしんどさを覚えたので、手放してしまった。
でもfujiwara, daisuke as quartz head / feat. hata-ken名義のquartz-head con-ver-sa-tion 02 (ewe 2005)はすごく気に入ったんだよなあ。
アフロっぽいリズムと、ドローンやアナログシンセの絡みがかっこいいんだ。
iTS限定のボーナストラック(別編集バージョン)は長尺で、抑制しつつも反復性の快感を持つ藤原のサックスをたっぷり聴ける。

*1:正確には、「CDでは」だ。リターン・トゥ・フォーエヴァーLight As A Featherと、『浪漫の騎士』も買ったことがあり、iPodには入っている。"Sorceress"など、気に入ってる曲もあるにはあるんだけどね。Light As A Featherに関しては、曲がかぶってるスタン・ゲッツアルバムのほうがはるかに良いと思う。あ、これもエレクトリックだわ。