chilican's diary

読んだ本や聞いた音楽の話をします。

ボーナストラック商法(2)菊地成孔ダブ・セクステット『イン・トーキョー』

菊地成孔の現在のグループのひとつ、ダブ・セクステット
ライヴアルバム『イン・トーキョー』(ewe)を聞いた。
これまでにこのライヴ盤以外にスタジオ作2作を出しているのだが、あまりのリリースペースの速さに、セカンドアルバムはまだ聞けずにいる。1年間に3枚も出しやがって(笑)。1stアルバムThe Revolution Will Not Be Computerizedの感想は旧ブログで書いていた。→これ

かつてのクインテット・ライヴ・ダブの拡張されたもの、ではあるのだが、メンバーが一新された。

菊地成孔 (Tenor Sax)
類家心平 (Trumpet)
坪口昌恭 (Piano, Kaoss Pad)
鈴木正人 (Bass)
本田珠也 (Drums)
パードン木村 (Real Time Dub Effects)

でもKQLDにしたって、『デギュスタシオン・ア・ジャズ』(&『〜オタンティーク/ブリュ』)では3種類くらいのメンバー違いがあった。ピアノは坪口昌恭か南博、ベースは水谷浩章菊地雅晃、ドラムは芳垣安洋か藤井信雄で、ダブはパードン木村かZAK。こうしたメンバーが曲によってちょっとずつ組み合わせを変えていたのだった。かれらKQLDのメンツは、菊地成孔が初リーダー作を出す以前から共演をレコードで聞けたり(ZAKはレコーディングエンジニアだ)、菊地日記や著書に登場する、いわば菊地成孔と悪い仲間たちの面々だったわけだが、ダブ・セクステットの新メンバー、類家心平と本田珠也はこれまでの菊地人脈にはいなかった(少なくともリスナーや読者には見えなかった)新顔である。

マイルス・デイヴィスの60年代のクィンテットがやっていた音楽を基本フォーマットに、コンピューターによる事後編集やリアルタイムでのエフェクト処理をおこなう。
アコースティック楽器によるコンボジャズに、ダブ処理やアコースティック楽器からみた非楽音を組み込んで、異化するというコンセプトは、モーダル・コーダル(あるいは「新主流派」)ジャズの系譜で見ても、当事者によるスマートな処理への特化(チック・コリアのサークル、VSOPなど)*1、ジャズの古楽器演奏/新古典主義ウィントン・マルサリスら)とならんで、今後ポピュラーになってもいいんじゃないかなー、と思うのだ。エレクトリックジャズだけれど、ウェザー・リポートジョー・ザヴィヌルは作品によってそういうのやってましたが。

そんなコンピューター処理なんてジャズじゃない!というアコースティック・ピュアリストもいるのだが、そういうジャズマニアに限って、録音は誰それでスタジオはどこそこだからこういう音になる、なんてことに詳しいから困る。オーディオマニアもいたりしてね。あなた方が聞いてるのも、電気・磁気処理されてるじゃありませんか。変なことにこだわると、おいしい演奏を逃すのだ。この『イン・トーキョー』、菊地成孔のテナーも、類家心平のラッパも、本田珠也のドラムも、燃えてますよ。坪口昌恭鈴木正人のバッキングもにくい。菊地のリーダー作では、本人のソロを一番多く聞けるアルバムではないか。

とここまで書いたところで、やっと題名にあるボーナストラックの話だ。
iTunes Storeで買うと、1曲増えているのである。圧縮音源ではあるが(256kbpsのAAC)、当然CDよりもお値段がお安い。しかしながらボーナストラックはアルバム丸ごとじゃないと手に入らなくなっている。
これはどっちを買うか迷うよね。ずるいなあー。(´・ω・`)

わたくし、1曲多いほうを選びました。
だってやっと出たライヴ・フルアルバムだ。たっぷり聴きたいじゃないの。
くだんのボーナスの"Monkey Mush Down"はマイルスじゃなくて、ショータ―入りジャズメッセンジャーズを思わせるポップなモーダルナンバー。菊地の正統派なソロが当時のショーターっぽいのもあるけれど、坪口が"So Tired"のボビー・ティモンズみたいに洒脱に決めてる。

あー、CDも買ってしまうかもしれないな。
これはもっといい音でも聞きたい。

*1:書いてから気づいたが、当事者の演奏は彼らが死んじゃったら聞けなくなる。既にトニー・ウィリアムスは鬼籍に入った。電化時代のスタジオ作参加者でも、コリン・ウォルコット、ドン・アライアス、ザヴィヌルは逝ってしまった。