chilican's diary

読んだ本や聞いた音楽の話をします。

Pierre Boulez / Sur Incises

せっかく買ったので何か書いておこうと思ったところ、post-itさんの「プリ・スロン・プリ」の記事に出会ったので*1、便乗して先日買ったピエール・ブーレーズとアンサンブル・アンテルコンタンポランのアルバムについて感想を。

Pierre Boulez; Ensemble InterContemporain, Jean-Guihen Queyras, Hae-Sun Kang / Sur Incises, Messagesquisse, Anthèmes 2 (DG, 1999)

Sur Incises (1996/1998) pour trois pianos, trois harpes, trois percussion-claviers
3台のピアノ、3台のハープ、3台の鍵盤打楽器のための「シュル・アンシーズ」(1996/1998)

ブーレーズには珍しく、旋律が反復される曲だ。といっても僕が持ってる彼の作曲はDGの『ル・マルトー・サン・メートル』、ピアノソナタ(ユンパネンとポリーニ)、BBC交響楽団の「プリ・スロン・プリ」なので、「構造」とかは聞いたことがないし、彼は常に改訂版を出すそうなので、本当に珍しいかどうかはわからない。
シロフォンマリンバを多用するのは「ル・マルトー・サン・メートル」や「プリ・スロン・プリ」でもそうだったから、おそらくブーレーズは鍵盤打楽器がすきなのだろうが、反復される旋律二身を任せる気持ちよさはマリンバをよく使うライヒを聞くときの楽しみに近いところがある。ただ、ライヒはこんなに疾走感はないし(ライヒは時間感覚が揺らぐんだよな)、3台の楽器が絡むときの3次元的な位置関係と凍りつくような硬い響きは、ブーレーズの世界だなあ、と思う。歌手がいないことも関係しているかもしれないし、時代背景や作曲者の意図など、別の理由もあるかもしれないが、「ル・マルトー・サン・メートル」や「プリ・スロン・プリ」を聞いていると、ひとりきりで置き去りにされるような恐怖も覚えるのだが、「シュル・アンシーズ」はテラーというよりもスリルだ。

DGから出てるCDには「シュル・アンシーズ」のほかに

  • Messagesquisse (1976-77) pour violoncelle solo et six violoncelles

(独奏チェロと6つのチェロのためのメサジェスキス)

  • Anthèmes 2 (1997) pour violon et dispositif électronique

(ヴァイオリンとエレクトロニクスのためのアンテーム2)
も収められている。
メサジェスキスのチェロ伴奏は怖い。サスペンス映画に使われたら、おしっこちびっちゃうかもしれない。
アンテーム2はエレクトロニクスで加工された無伴奏ヴァイオリンだ。普通にかっこいい。ただ、シュトックハウゼンの「コンタクテ」の格闘技の組み手みたいな感覚や、いわゆる「音響系」以降のロマンティックな電子音楽を期待するとあてが外れる。たとえて言うなら、ヴァイオリンのフランケンシュタインを作ってるような感じかな。ブーレーズ博士ただいま人造人間作成中?

*1:たぶんここで取り上げられているのは僕も持ってるワーナー/エラート版だと思うんだけど、ジャケットはおぢさんのポートレートじゃないのもあるのかな