chilican's diary

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Avishai Cohen / Cross My Palm With Silver

 イスラエルのトランぺッター、アヴィシャイ・コーエンのCross My Palm With Silver(2017, ECM)の感想です。

 

CROSS MY PALM WITH SIL

CROSS MY PALM WITH SIL

 

 Avishai Cohen - Trumpet
 Yonathan Avishai - Piano
 Barak Mori - Double Bass
 Nasheet Waits - Drums

 

 2015年の『イントゥ・ザ・サイレンス』に続くECM第2作で、今作はテナーサックスが抜けてカルテットになっている。カルテットのメンバーはアヴィシャイ・コーエン(トランペット)、ヨナタン・アヴィシャイ(ピアノ)、バラク・モリ(ベース)、ナシート・ウェイツ(ドラムス)。バラク・モリは今回が初登場だが、コーエンと同じくイスラエル出身でニューヨークを拠点にしている演奏家だ。

 ラッパのワンホーンアルバムはジャズではさほど多くない。ECMでそのたぐいの作品となると、まずケニー・ホイーラー(フリューゲルホルン)の『ヌー・ハイ』(1976)が真っ先にあがるだろう。ホイーラーの美しい曲、ホイーラーとキース・ジャレットの歌うようなソロ、ジャレット、デイヴ・ホランドジャック・ディジョネットのダイナミックなリズムセクション。アヴィシャイ・コーエンのCross My Palm With Silverも、美しい曲、技巧者として知られるトランぺッターの歌うようなソロを堪能できる作品だ。カルテットのやり取りは変化に富んで緊迫感がある。
 オープニングの"Will I Die, Miss? Will I Die? "(「ぼくは死ぬの?看護婦さん。ぼくは死ぬの?」は2016年11月にアレッポで起こった、シリア軍による塩素ガス襲撃で被害にあった男の子が看護師に言った言葉が曲の題名だ。"Theme For Jimmy Greene”は2012年のサンディフック小学校銃乱射事件(アメリカ、コネチカット州)で娘を亡くしたサックス奏者に捧げる曲だろう。演奏の緊迫感は演奏家の腕だけではなく、弱いもの、幼いものに暴力が降りかかる今の世界へのまなざしがこのアルバムに収められている音楽にあるからではないか。コーエン達4人は悲しみの中にある人たちとともに、その死や苦しみを悼む歌を歌っているのだ。