chilican's diary

読んだ本や聞いた音楽の話をします。

2017年一番良かった映画『ユーリー・ノルシュテイン作品集 2K修復版』

 今年は映画館に足を運ぶことができず、映画はすべて自宅でDVDかネット動画で見た。
 さて、2017年に見た映画で一番良かったのは、この1枚です!

 ユーリー・ノルシュテイン作品集 2K修復版 (Cinefil、2017)

  ディスクのレーベル、シネフィルのサイト
http://www.cinefilwowow.com/cinefil/norstein.html

 ユーリー・ノルシュテイン監督特集上映「アニメーションの神様、その美しき世界」
http://www.imagica-bs.com/norshteyn/

 

 ロシアのアニメーション作家ユーリー・ノルシュテインの監督作品6作品を収めたブルーレイ/DVDです。収録作品は、

 『25日・最初の日』(1968)
 『ケルジェネツの戦い』(1971)
 『キツネとウサギ』(1973)
 『アオサギとツル』(1974)
 『霧の中のハリネズミ』(1975)
 『話の話』(1979)

 ぼくはブルーレイの再生環境がないので、DVDを購入しました。今すぐ見られなくても、ブルーレイもやっぱり買おうかな、とこの修復版を見て思っています。映像と音が美しく、素晴らしい作品をこれまでにも増して堪能できます。

 ぼくがノルシュテインのアニメーションに出会ったのは20代前半だったのですが、『霧の中のハリネズミ』(1975)は、5歳の時に見た杉井ギサブロー監督のアニメーション『銀河鉄道の夜』(1985)とともに、ぼくの人生の進み行きを変え、ものの見方を見る前と後で永遠に変え、ぼくが人生で求めるものを変えた映画なのです。ぼくは健康とは縁遠く、治りにくかったり、治らないから死ぬまで背負っていかなくてはいけない病気をいくつか持っているのだけれど、『霧の中のハリネズミ』は20代のぼくが何とか死なないでやっていくために繰り返し見た映画です。ぼくにもたらした影響はさておいても、『霧の中のハリネズミ』は、文字通り瞬きもせず、息を凝らして見つめる映画です。この作品を見るものはハリネズミくんとともに驚きに目を見張り、恐れおののきながら霧の中を歩むでしょう。

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ユーリー・ノルシュテイン作品集のDVDと、はりねずみくん、こぐまくんのぬいぐるみ

  ノルシュテインの監督作品で一番考えたのは、やはり『話の話』。戦争と都市生活の大変化を軸に、平和とあるべき人間の生き方を描いた映像詩です。行軍列車が過ぎるときの風に吹かれ、茂みの中で雨に打たれる枯葉は、よるべなく環境に左右されて生きる人間の姿に見えます。そのかたわらには平和であり豊穣である大きくて丸いリンゴがある。夢見るようなこの映画を読み解くには繰り返し見なくてはならないし*1、上質の映像で繰り返し見るのはまた喜びです。

 これまで出ていた『ユーリ・ノルシュテイン作品集』(パイオニアLDC、2002)には上記ノルシュテイン監督作品に加え、彼がスタッフで参加した『愛しの青いワニ』(1966、ヴァジーム・クルチェフスキー監督)と『四季』(1969、イワン・イワノフ=ワノー監督)の二つが入っていたけれど、2K修復版の『ユーリー・ノルシュテイン作品集』には2016年の来日インタビューと講演の模様が収められている。ノルシュテイン自身による作品の解説が載っているブックレットも豪華だ。既存の作品集を持っている人も買い足して満足すると思うし、持っていない人は手元においていつでも見るといい。まだノルシュテインの作品を見たことがない人には、これから素晴らしい経験が待っている。

 映画ではないけれど、ノルシュテインの手掛けたアニメーションでいまだソフト化されていない(ロシアではされていたりするのかもしれないけど)、「ロシア砂糖」のコマーシャルとテレビ番組「おやすみなさいこどもたち」のオープニングとエンディングの短編(これに出てくるこぐまくんはとてもかわいい)もきちんとした形で見たい。最初に新たなホーム・メディアの発売を聞いた時、この二つの収録を期待したんだけど、それはかないませんでした。そしてもちろん、『外套』の完成を待ちわびているのです。

 

*1:さらに『話の話』を読み解くためには多くの研究書がある。ぼくはこれまでにユーリー・ノルシュテイン作、高畑勲解説、『話の話 映像詩の世界』(フィルムブックに高畑の作品論が加わったもの。徳間書店1984)、児島宏子『アニメの詩人ノルシュテイン : 音・響き・ことば』(東洋書店、2006)、クレア・キッソン『『話の話』の話―アニメーターの旅 ユーリー・ノルシュテイン』(未知谷、2008)を読んだ。