chilican's diary

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Jon Hassell / Last Night The Moon Came Dropping Its Clothes In The Street


Jon Hassell / Last Night The Moon Came Dropping Its Clothes In The Street (ECM 2077, 2009)
蒸気のような独特の音を持ったトランペッター、ジョン・ハッセルの新作がECMから出ました。
ブライアン・イーノとのPossible Musics: Fourth World Vol.1 (1980)は大好きだし、同時期のトーキング・ヘッズへの客演はそれほどでもないけど、アーニー・ディフランコのアルバムなど、ゲスト参加でもハッセルがぷふうううーぅぅぅぅ、と吹けば、空気が静かに艶めく、すごいラッパ吹きだ。

彼の足跡をずっとたどっているわけではないのですが、ここまでパーカッションをめだたせない作品はめずらしいのではないかな。アンビエントとか彼の独特な音色など、とかくゆったりなイメージが残るハッセルですが、その息の長さ(奏法も独特だし、電気処理も加えている)は絶えず躍動するリズムとともにありました。

『第四世界』ではフィールド・レコーディングに加え、ナナ・ヴァスコンセロスやアイーブ・ディエングといったパーカッション奏者が加わっていますし、レッチリのフリーやケニー・ギャレットを加えたDressing For Pleasure (1994)はドラムと打ち込みを活用したクラブジャズでした。クロノス・カルテットの依頼でかかれた曲はバルトーク・ピッツィカートをばしばし決める曲だったし、ハッセルの音楽は絶え間ないパーカッションとかすかに揺れ動くロングトーンの「声」だと思っていたのです。

ところが、現在のレギュラーバンド「Maarifa Street」に北欧のエレクトロ・ジャズのミュージシャンが加わって作られたこのアルバムは、以前よりもパーカッションを強調しない面が増えている。
リズムを強調と言っても、基本的にはこれまでもパーカッションもすべてかすれたような音でとられていたのですが、ライブサンプリングを全面的に使っているので、エコーがリズムの主体になる、あるいは伝統的なリズムい楽器の音色が前面に出てこない場面が格段に増えたのだと思います。
ライヴ演奏が元になっている何曲かは(ノルウェーの空間系ジャズロックギター小僧、アイヴィン・オールセット入り)、マイルスのIn A Silent Wayっぽいのです。

日本ではアコースティックなジャズのファンにも、フュージョンのファンにも、クラブジャズのファンにもあまり受けないような懸念があります。
かなりバイアスはかかるのだけど、2chのログを検索してみても、ぜんぜんジョン・ハッセルは引っかかってこないしなあ。
同傾向のアルヴェ・ヘンリクセンの新作『Cartography』ECMからでたことだし、アンビエント方面が今後増えるのかな?
ぼくは非常に気に入ったので、できればこの手の静かなエレクトロ作品をECMからもっと出して欲しいところです。