chilican's diary

読んだ本や聞いた音楽の話をします。

マライ・メントライン「ケバブ」(『飛ぶ教室』第52号)(追記あり)

 マライ・メントライン「ケバブ」を読みました。

 児童文学誌「飛ぶ教室」の第52号、『飛ぶ教室 特集 「飛ぶ教室」的世界一周旅行!』(2018、光村図書)に収録されている短編小説です。

 家出してから三年、フェーリクス少年はベルリンのケバブ屋で住み込みで働いていたが、店のオーナーであるトルコ人のおじいさんが店を閉めることにした。三年間の記念におじいさんが「くれたかった、、、、、、」(P.45)派手な金のネックレスを手に、あてのない、気ままな旅に出たフェーリクスに、金のネックレスを物々交換しないかと持ち掛ける声がした。なんと、その声の主は……。

 おなじみの民話を思わせる筋立てで、それぞれ別の民話を連想させる登場人物が出てくる。その翻案が楽しい。気づいてニヤッとする楽しみだよ。挿絵もかわいいです。さらに、現代の物語に導入するときに、移民であったり高齢者介護だったり、ステップファミリーといった、われわれの時代の話に語りなおされているのがだいじなところだ。往々にして我々の社会は厄介者を追い払うか、見えない場所に押し込めるか、見なかったふりをしてやり過ごすのだけれど、この物語では、ケバブ屋のおじいさんとフェーリクス少年は目の前の人に、手持ちの手段でできることをする。

 著者自身による解題がツイッターにあるので、あわせて紹介する。

  ひとりの「わたし」にはできることがなぜ、「わたしたち」にはできないのか?という問いであろう。わたしたちといったときに、その中にいるほかの誰かがやってくれることに寄りかかっていることが多いのだ。それって自ら何かをしていることにはならないよね。

 そのときしたことが巡り巡って、二人をそれぞれ最初は思いもしなかった場所に連れてゆく。フェーリクスの旅路が主筋なのだが、2度目に読んだ後で、おじいさんがフェーリクスを店に置いたことが、その後のおじいさんの幸せへの第一歩だったのだ、と気づいて、なんともうれしくなった。ケバブみたいにぱくっと食べたら、じゅわっとおいしい小説である。

 

 2月19日追記。
 光村図書のウェブサイトに、マライ・メントラインさんのインタビューが掲載されている。執筆に際してのコツや意図などが書かれている。「ケバブ」はマライさんの最初のフィクションだそうだ。次はいつ読めるかな?

www.mitsumura-tosho.co.jp

飛ぶ教室 第52号(2018年 冬) (【特集】「飛ぶ教室」的 世界一周旅行!)

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