chilican's diary

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Zappa/Mothers (Frank Zappa) / Meat Light: The Uncle Meat Project/Object Audio Documentary

 フランク・ザッパのアルバム Meat Light: The Uncle Meat Project/Object Audio Documentary(2016, Zappa Records / UMe)の感想です。

 

Frank Zappa Meat Light: the Un

Frank Zappa Meat Light: the Un

 

  フランク・ザッパのスタジオアルバムの成立過程を未発表バージョンや未発表曲でたどるProject/Objectシリーズの第5弾は、1969年発表の『アンクル・ミート』をめぐるものだった。3枚組Meat Lightの構成は次のようになっている。


 1枚目が『アンクル・ミート』のアナログレコード初版のミックスをCD化したもの。
 2枚目と3枚目の11曲目までが、「『アンクル・ミート』オリジナル・シークエンス」と題して、発表前に構想されていた、LPとは異なる曲目、曲順による2枚組アルバムの再現。
 3枚目の12曲目から32曲目までが、倉庫からの蔵出し音源で、シングル盤のミックスや不採用ミックス、同時期に録音された未発表のもの。

 まず『アンクル・ミート』の初版ミックスは初CD化だ。ザッパは自作をCDで再発する際に、60年代から70年代半ばの作品にはリミックスをしたが、さらに60年代のアルバムは演奏の差し替えやボーナストラックの追加を多く行った。そのため、妻のゲイル・ザッパと「倉庫マイスター」ジョー・トラヴァースの手で本Project/Objectシリーズや2012年のユニバーサルからの再発がでるまで、多くのCDではアナログレコードとは違うミックスが出ていた。『アンクル・ミート』もザッパによる1987年のCDではアナログミックスよりも高音域が強調され、さらにボーナストラックが追加されたのだが、このCDに追加された音源が曲者であった。
 『アンクル・ミート』はもともと69年当時は未完成に終わった同名の映画のサウンドトラックでもあった。87年に映画をビデオで発売するのに合わせ、CDには映画の音楽以外の部分の抜粋が約40分、そして82年に録音された、シシリア語のロック猥歌「テンゴ・ナ・ミンキア・タンタ(おれのイチモツはでっかいぞう)」が加えられた。これでこのアルバムは文字通り映画の「サウンドトラック」になり、おまけに新曲も入った。ばんざい!……とは、残念ながらフランク・ザッパ以外にはならなかったのである。ザッパは、レコードで買ったものを買いなおさせるのだから、何か新しいものがなくてはと思ったのだろうが、おまけがありがたくないこともある。たっぷりの追加音源はおそらく3つの不満を、新旧のファンにもたらした。


 まず、映画の音楽以外の部分を、音だけ聞かされてもあまりぜんぜんおもしろくない
 新曲がはっきり80年代をしめしていて、もともとのアルバムと曲調も雰囲気も調和していない。
 追加トラックがLPの第3面と第4面の間に入ったので、CDをそのままかけてもLPの曲順で聞けない。
 

 これらの理由から、『アンクル・ミート』のCD追加曲は「ペナルティ・トラック」とよばれ、邪魔者扱いされることになった。2012年のユニバーサルからの再発がオリジナル・マスターからの復刻という触れ込みながら、『アンクル・ミート』はおじゃま入りのこれまでのCDと同じであった。ペナルティ・トラックをスキップするたびに、準アナログミックスのCDが出ればいいのになあと、親指をもじもじさせていたのはぼくだけではあるまい。

 2016年になってようやくぼくは1969年のオリジナルミックスの『アンクル・ミート』を聞けたわけだが、こちらのほうが87年ミックスよりも良い。このアルバムはかわいらしいメロディのクラシック曲と、ザッパのギターが強烈なうるさいブルースロックにロックミュージシャンがやるジャズと、テレビのコマーシャルソングがかわるがわる出てきて、スタジオ録音とコンサートのライブ録音も地続きでつながるフランク・ザッパの作風が確立した傑作だ。1970年代前半のザッパ・バンドの屋台骨、打楽器奏者のルース・アンダーウッド(旧姓コマノフ)の初参加作品でもある。2016年版は聞きつかれしないし、マリンバのコロコロや木管楽器の音がみずみずしくて、器楽曲の楽しみがぐんと増した。

 試作版は曲順と一部の曲の編集、速度が違ったり、最終的にカットされた曲もあり突然ぶちゅっと曲が切れたり、おしゃべりが入ったり、サウンドコラージュと映画のモンタージュのような、時間も場所も別の音源をつないで、レコードならではの流れを作るのは、晩年までザッパが愛用した手口だが、『レザー』とばら売りアルバムよろしく、おなじみの『アンクル・ミート』とは印象が大きく変わる。試作版はおふざけ感大幅減。「ドッグ・ブレス」「アンクル・ミート」「キング・コング」の器楽三曲をドン、と柱として建てた、聞いているほうも汗びっしょりのシリアス作品。 ライブでの器楽ソロの抜出と思しき、"The Whip"と「アンクル・ミート・バリエーション」、「キング・コング」が並ぶ第二部など、ファラオ入りコルトレーンみたいな手ごわさ。音がゆがんでいるバンク・ガードナーのバスーンでへろへろだ。試作版はリリース版に比べると、LPの各面がよりくっきりわかれる並びの曲順になっている。 

 蔵出し未発表曲は、はるか未来『イエロー・シャーク』までつながるザッパのシリアスな現代音楽が多いが、一番は"Nine Types Of Industrial Pollution"のギタートラックだ。ザッパが考慮したとは考えにくいが、「スリープ・ダート」や「本日のアヒル」と共に、アコースティック・ギター曲集を作ってほしかった。素晴らしい演奏だ。