Frank Zappa For President (2016)

 フランク・ザッパの新しいアルバムFrank Zappa For President が出た。ツイッターに書いた感想をまとめておく。
 今年行われるアメリカ合衆国大統領選挙にちなんで、金と宗教右派が大きな影響を持つアメリカの政治に対する風刺の音楽を集めた編集盤だ。フランク存命中にリリースされた『ブロードウェイ・ザ・ハードウェイ』(1988年リリース)とテーマが共通している。プロデュースはアーメット・ザッパとジョー・トラヴァース。

 『フランク・ザッパを大統領に』の題は、アルバムのジャケットやブックレットには有権者登録を呼びかける文言を印刷し、1988年のアメリカツアーでは会場に有権者登録所を設け、大統領選挙への出馬を考えたザッパ自身の活動を思い出させるものだ。ちなみに、様々な発言や歌詞から考えると、ザッパはより多くの人が投票を通じて政治に参加することを重視し、社会保障や国家の事業の財政は、受益者が進んで維持費を負担するのがよいと考えていたようだ。1985年に上院の公聴会に出席し、PMRCの検閲に反対意見を述べたことは知られているが、大手レコード会社との軋轢を経て、自身もインディペンデントのレコード会社を経営し、楽団を維持してツアーをしていた人であるから、大きな組織からの自由を重視したのだろう。ザッパはキャリアを通じて政府や宗教、大レコード会社からの検閲に反対し、権威への服従に対する風刺を歌い続けた。

 全7曲収録で、未発表のシンクラヴィア曲が4曲、別バージョンのバンド編成のロック曲が3曲入っている。
 未発表の器楽曲「アンクル・サム序曲」。ザッパのディスコグラフィー・サイトIINKによると、*12007年にアンサンブル・アスコニアが演奏会で世界初演した。本盤はザッパ自身によるシンクラヴィア演奏。アンクル・サムといえばアメリカ合衆国を擬人化した男性で、未完のオペラのために書かれたもののようだが、ほとんどこの曲に関する情報がない。アコースティック・ギターがつま弾くような前半の旋律がぼくはとても気に入った。
 シンクラヴィアをバックにナポレオン・マーフィー・ブロックが朗々と歌う「アムネリカ」。歌詞なしのシンクラヴィア演奏が『文明第三期』に、断片が『シング・フィッシュ』にはいっているが、単独の歌曲としてはようやくの登場。アメリカはいまや記憶喪失(amnesia)で人種差別のアメリカ(Amerika)、アムネリカ(Amnerika)となった。こんな国は存続してはいけない、という歌。
 「私が大統領だったら」はザッパの語りにシンクラヴィア曲を合わせたもの。独立経営者がたくさんいる方がいいとか検閲の否定は同意するところだけど、ぼく自身はあまりに役割を限定した政府が素晴らしいとは思わない。
 「中世合奏曲」はどこら辺が中世かはよくわからないんだけど、ファンファーレ風のメロディーがシンクラヴィアの細かいパーカッションが乱入してきてバシッ、バシーッっとずたずたになってゆく。

 ロック曲は3曲。88年バンドのライヴ演奏が2曲。いずれも1988年3月25日ナッソー・コロシアムでの録音。「嘘がすごく大きくなると」と「美しきアメリカ」(こちらはネット配信済み)。どちらもアイク・ウィリスとボビー・マーティンが歌い上げる曲だ。どっかで聞いたことのある旋律を巧みに使うのが88年バンドの聴き所のひとつだ。

 「汚い靴じゃ成功できない」は『アブソリュートリー・フリー』のリミックス。ぼくは『アブソリュートリー・フリー』も「美しきアメリカ」のネット配信版ももう持ってるから、すべて初出の音源がよかったとも思うが、持ってない録音を聞きたいと思うのはコレクター心理で、盤の文脈とは別に考えなくてはならない。シンクラビア曲がどちらかといえば『ジャズ・フロム・ヘル』の過激ダンスよりは、よりクラシックっぽい曲に聞こえるから、この「ブラウン・シューズ」を管弦楽 入りの最初のスタジオ版にしたのは他の曲とあっている。ライヴ2曲を同日でそろえたのも統一感がある。

 インストゥルメンタル2曲の意味はまだよくわからないけど、88年当時だけでなく、21世紀アメリカの政治や社会での、宗教右派の伸長と、政治家の公約の大言壮語ぶりへの風刺になっている。届く前は正直なところ、軽く見てたんだけど、いいアルバムです。未発表曲は楽しいし、30年前の風刺が今でも通用するのは世の中が連続してひどくなっているからであり、FZの芸術の強さゆえであり、プロデューサーの選曲がよい。

 

Frank Zappa for President

Frank Zappa for President