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だれかのために 『I LOVE スヌーピー THE PEANUTS MOVIE』(ネタバレあり)

映画

 『I LOVE スヌーピー THE PEANUTS MOVIE』(※注意。リンク先公式サイトは映像が流れます)(2015)を見てきた。

 ビーグル犬スヌーピーでおなじみの『ピーナッツ』、長編劇場映画としては35年ぶりの新作で、3DCGアニメである。監督はスティーヴ・マーティノ。日 本で放送、メディア化されたこれまでのアニメ作品は谷啓坂本千夏ら大人の俳優が吹き替えを担当してきたが、今度の映画は子供の声は子供が演じるアメリカ 版に準じ、日本語版も10歳ほどの子役が演じている。スヌーピーは長年演じているビル・メレンデスが、ユニークなところでは大人の声をトロンボーン・ ショーティーがトロンボーンの音で出演していて、これら人間の子供でない役は日本語版独自の吹き替えはない。音楽は旧作以来のテーマ・ソングになっているヴィンス・ガラルディの曲や、『アナと雪の女王』のクリストフ・ベックの作曲を、ガラルディのカバーでも知られるジャズピアニスト、デイヴィッド・ベノワらが演奏している。

 やることなすこと上手くいかないチャーリー・ブラウン鈴木福)。大雪で学校が休みになった日、チャーリーの家の向かいに、赤毛の女の子(芦田愛菜)が引っ越してきた。女の子に一目ぼれしたチャーリーだが、自信のない彼は彼女に声をかけることもできない。ルーシー(谷花音)の「こころの相談室」での助言に従って、彼は学校祭やダンスパーティーでかっこいいところを赤毛の女の子に見せようとする。はたしてチャーリーは成功して、赤毛の女の子に気付いてもらえるだろうか?

 『ピーナッツ』といえば、ぼくは原作者シュルツの絵の感じとともに記憶しているのだけれども、いかにも21世紀のCGアニメ風(『マダガスカル』 等のドリームワークス作品と比べると、ずいぶん柔らかい印象だが)の絵の中に、ところどころ原作マンガを思わせる表情や動きを表す線が入ってくる。これは かなり新鮮だった。

 また、長年のファンにはおなじみの物事が巧みに織り込まれているのも楽しい。犬であるスヌーピーはしばしば様々な職業や人物になりきるのだが、そのひとつ、第一次世界大戦撃墜王、フライング・エース対レッド・バロンのエピソードは、フライング・エースがさらわれた恋人のパイロット、フィフィを救うという空想になっている。愛機「ソッピーズ・キャメル」の描写は見どころの一つだ。
 フライング・エースの冒険はチャーリー・ブラウンの恋の成り行きと対応しているのだが、フ ライング・エースひとりでは失敗続きで、飛行隊の小鳥たちの助けと、フィフィが自分で逃げ出す場面がある。はっきりと描かれていないのだが、ここは破けて 紙くずになってしまったチャーリーの読書感想文を赤毛の女の子も一緒になって直したことを示唆していると解釈しているが(紙をつなげないか、という赤毛の 女の子のセリフがある)、どうだろうか。

 テストで高得点を取ったら表彰されるとか、学校でダンスパーティーがあるとか、アメリカの子供の学校文化を通してではあるが、この作品でもまず、抜きんでた能力を多くの人の目に明らかにすることが成功だ、という価値観が示され、目標として掲げられる。だが、そうした成功が何にも勝る至上の価値であるか。
 例えば、テストで満点を取って一躍天才と持ち上げられるチャーリーをだしに、チャーリー・ブラウングッズをここぞとばかり売りさばき、ブラウン家ツアーを企画して 儲けようとする妹サリーの姿は、商品化できるものに価値がある、とか、なんでも目新しいうちには売り物になるといった事柄をコミカルに風刺している。チャーリー・ブラウンが手品やダンスのけいこに励み、「大人の本」であるトルストイの『戦争と平和』の読書感想文に挑むといった努力はなかなか報われない。しかし、自分の出番をふいにしてもサリーの出し物に手を貸したり、ダンスの会で食べ物の支度をしたり、ペアで書く読書感想文を、学校を休んだ赤毛の女の子の分でもあるからきちんと書き上げたりする。そうしたチャーリーの姿を赤毛の女の子がよく見ていて、結末で彼を正直で、面倒見の良い、いい人だとほめる。華々しい成功として形に表れない働きやほかの人のために何かをすることをたたえる。この点は子供向けということもあるかもしれないが、はっきりと見える。


映画『I LOVE スヌーピー THE PEANUTS MOVIE』日本語版予告編

 

I LOVE スヌーピー THE PEANUTS MOVIE オリジナル・サウンドトラック

I LOVE スヌーピー THE PEANUTS MOVIE オリジナル・サウンドトラック