chilican's diary

読んだ本や聞いた音楽の話をします。

Tim Berne / Snakeoil

Tim Berne / Snakeoil (ECM 2234, 2012)

 アルトサックス奏者ティム・バーンのECM初リーダー作がでました。

Snakeoil

Snakeoil

 題名のSnakeoil(日本語で言うと「がまの油」ですね。インチキな万能薬。)はグループ名でもあるようです。 メンバーはTim Berne(as), Oscar Noriega(cl, bcl), Matt Mitchell(p), Ches Smith(ds, perc)。 弦バスがいません。空前絶後の編成、というわけではないけれども、ちょっと目を引きますね。これでクラリネットもいなかったら古くはセシル・テイラー山下洋輔トリオ、最近だとFieldworkとか、リズムくっきりの「バキバキプリビギ」と威勢のいい感じの演奏を期待するところです。ダブルベースがいないのでピアノの低音部ががんがん来る激しいジャズ。

 ですが、(バス)クラリネットがいるので、ちょっと趣が違っています。 バーンのアルト自体が時間の感覚を引き伸ばしたりつづめたりというのに長けているのですが、オスカー・ノリエガのクラリネットもまたその変容に一役も二役も買って出てくる。もともとクラリネットの丸い音色ってほかの管楽器よりゆったりして聞こえるけれども、アンサンブルの中で真ん中から下を受け持つこのグループでは、ベースのノリがダブルベースとは明らかに異なってくる。ダブルベースなら「もん」というところを「もおおおぉぉん」くらいになっている。そしてそれがきもちよい。 もちろん2管編成として、リード楽器同士のダイアローグという側面も堪能できるし、1曲目冒頭のミッチェルのピアノからしてECM好きは大きくしずかにうなづくと思う。しかしながらこのアルバムは、最後の曲に顕著なように、ゆったりとしたオスティナートに酔っていたらそれをふっと外される、というのが一番楽しい。 ぼくの限られたティム・バーン経験では、一番静かな一枚。

 ECMのバーン3枚(2012年当時。今はもっと増えた)の中でどれがいいかというのはちょっと難しい。見事に全部傾向が違う。 いわゆる「(激しい)ジャズ」的に決まっているのはMichael Formanek / The Rub And Spare Changeだけど、David TornPrezensもバーンが突き刺さってきてアンビエントプログレ的にかっこいい(とはいえ、あのアルバムの音像は車酔い的に酔うので、ぼくは体調がものすごく良いときでないと聞かない)。しかしこのSnakeoilECMでなかったらぜんぜん性格の違うものになっていたのではないか。 それにしても、オスカー・ノリエガかっこいいぞ。

 ECM公式サイト内「ECM Player」で試聴可(自動で音が流れます)。