chilican's diary

読んだ本や聞いた音楽の話をします。

ジョー・ヘンリーとアラン・トゥーサンのおいしいニューオーリンズ


Allen Toussaint / The Bright Mississippi (Nonesuch, 2009)

ファンキーおじさんアラン・トゥーサンの新作はあのジョー・ヘンリーのプロデュースだ。

ジョー・ヘンリーといえば、ジャズやソウル、フォークにカントリーと、アメリカ音楽のおいしいところを押さえた渋い歌を歌い、プロデュースにも活躍する「なぞのハードボイルド・シンガーソングライター」である。オーネット・コールマンブラッド・メルドー、マーク・リボーにブライアン・ブレイド、さらにはミシェル・ンデゲオチェロを存分に使いこなしたScar*1と、ドン・バイロンの深いクラリネットが効いたTiny Voicesのやさぐれジャズ2作にはハマった。*2この2枚での甘美なる退廃はくせになりますよ。
客演やプロデュースでも引っ張りだこで、エイミー・マンのクラシック・ロック・「ロードムービー」・アルバムThe Forgotten Armもあきのこない作品だ。追っかけているわけではないが、これまで聞いた関与作にはとにかく外れがない。

今回のアラン・トゥーサンThe Bright Mississippi(Nonesuch, 2009)はアーリー・ジャズを中心にしたアルバムだ。
ヘンリーの関与作ではおなじみのドラマー、Jay Belleroseをはじめ、前述のアルバムにも参加していた連中が起用されている。

  • Allen Toussaint, piano, vocals
  • Don Byron, clarinet
  • Nicholas Payton, trumpet
  • Marc Ribot, acoustic guitar
  • David Piltch, upright bass
  • Jay Bellerose, drums and percussion

and special guests

すいすい吹いちゃうドン・バイロンクラリネットやニコラス・ペイトンのちょっと曇ったトランペットはピアノとよく合っているし、リボーのギターはいつものうさんくさいなんでもござれアヴァンギャルドとは違って、ひっかきまわし役ではないが、ここにはなくてはならない活躍をしている。なによりもトゥーサンのピアノのコクのあるうまさ!

ゲストのブラッド・メルドージェリー・ロール・モートンの"Winin' Boy Blues"をトゥーサンとデュオで弾いているんだけど、これがすばらしい。ちょうどいまぼくが聞いている状況がそうなのだが、気持ちのいい日差しの中で弾いているような感触がある。こういう柔らかい演奏をメルドーは自分のアルバムではあまりやらないし、美しい旋律を聞けるという点でも、メルドーのよさが出ていると思う。

(追記)
5月21日付で、New York Timesに、このアルバムでのクィンテットと同じ編成で(トランペットはペイトンからクリスチャン・スコットに代わっている)ヴィレッジ・ヴァンガードで行われているライヴの記事が載っている。

「なつかしのニュー・オーリンズ音楽の再創造ではなく、ニューオーリンズの遺産、つまりブルースに優雅なものを見出す上品な感受性が磨いた長年の記憶、から生まれた夢であった」というから、ずいぶん充実したライヴであったらしい。

*1:オーネットはなぜここでふいたように吹けないのか。ハーモロなんちゃらといって忠実な弟子や息子とピーピー吹いてる場合ではあるまい。このアルバムは『ジャズ来るべきもの』『フリー・ジャズ』と並ぶオーネットのベストだ。

*2:Scarは、少なくともネット上ではハマっている人が多いようだ。検索して見つけた、やられちゃった人たちの声。setoh.com中年音楽狂日記:Toshiya's Music Bar「コレクターはつらいよ(6):でもこういうのなら大歓迎だ」com-post新譜レビュー